China Beauty Headline|ライブコマースの成功と失敗

アリババの化粧品売上高は前年比34%増、WeChatに「指ハート」で開く新機能?ライブコマースについて知っておくべき10の真実
臼井杏奈 2020.09.08
誰でも

Twitterでアンケートをしたら2番人気ではあったのですが、ライブコマースに関する有名な成功・失敗事例や、知っておきべき内容をまとめました。また個人的に注目のWeChat新機能などもお届けします。

NEWS|アリババの1〜8月の化粧品売り上げは前年比34%増

8月のアリババのプラットフォーム全体での化粧品の売上高は、前年比26%増の227億元(約3405億円)で、前月比では減少した。平均価格は84.2元(約1260円)で、前年同月比26.5%増。主に平均価格の上昇によるもの。スキンケアは前年同期比20.5%増、前月比12%減。メイクアップは前年同期比35.1%、前月比11%減となった。また1〜8月までの化粧品売上高は前年比34%増の1634億元(約2兆4510億円)だった。

コメント:ワトソンズが欧州とアジアの顧客に行った調査では、すべての回答者が新型コロナが収まれば実店舗で買い物すると答えたといいます。しかしオンラインでの化粧品の売れ行きもまだまだ好調です。

スキンケアでは、フェイシャルマスクは国内ブランド、エッセンスは国際ブランドが売れています。口紅とファンデーションも主に国際ブランドが人気ですが、「PROYA」「花西子」「Carslan(卡姿兰)」などの国内ブランドの名前も。

NEWS|DFSがライブコマース 1時間で1営業日分の売り上げに

大手旅行小売業者のDFSは8月18日、WeChatを介して顧客向けのライブコマースを店内から配信した。配信ではスキンケア、化粧品、香水など8つの美容製品が販売され、たった1時間で前日の1営業日(12時間)の美容カテゴリーの売り上げに達したという。ライブコマースは店員が行い、割引やギフトの追加などが反響を呼び、5万試聴、3万いいね、6000件のコメント、1万2000回の製品ページクリックと好調だった。

コメント:ライブコマースは淘宝(Taobao)ライブが主流ですが、WeChatでは主にブランドやラグジュアリーが配信を行うケースが増えています。新型コロナによって旅行客を相手とするDFSは中国の顧客向けにデジタル強化を進めており、ライブコマースはその一つの鍵となりそうです。

TOPICS|ライブコマースの成功・失敗事例

ライブコマースに関しては「1時間で○億元売るKOL」など大きな成功例が語られますが、配信の肝は「売る」ことではありません。

多くの大体の配信はセール価格で行われ、ライブ配信中の一時的な売り上げでしかありません。その中で認知度を向上させたり、ブランドに愛着を持ってもらったり、そのためにいかにリアルタイムの対話や臨場感でエンタメに仕上げるかといった点が重要になります。「ジャ○ネット・たかた」というより、一種の広告費と捉える方が良いのです。

そんなライブコマース、成功も失敗も数多くあり、中でも有名な事例をご紹介します。その前に、まずライブコマースについての基礎情報を10点で振り返ります。

■ライブコマースで知っておくべき10の真実

(1)顧客がブランドと製品をより深く知る機会になる(2)ライブコマース=エンタメとECを組み合わせたもの(3)中国ECでは避けられないマーケティング手段になってきた(4)メインプレーヤーは「淘宝ライブ」(5)配信方法はKOLへの依頼か、ブランド自ら話すか(6)トップライバーは認知度と売り上げを即座に生み出すが、しばしば損失もある(7)新商品や新店舗の展開をライブコマースで行うことが多い(8)ライブコマースのコストは上昇している(9)農家から自動車ディーラー、社長もライバーに(10)値崩れや売り上げが見込めないなど懸念も

失敗事例:先陣を切るも、高級感はどこへ?「ルイ・ヴィトン」

「ルイ・ヴィトン」の小紅書の投稿から

「ルイ・ヴィトン」の小紅書の投稿から

これは有名な失敗談です。「ルイ・ヴィトン」はラグジュアリーブランドの先陣を切って小紅書のライブ配信に挑戦。2人の配信者が春夏コレクションを紹介する内容ですが、セットがダサすぎ!さらに内容も淘宝ライブで見るような安っぽいものに。

放送後は「(安い服が多い)淘宝の店みたい」「レベルが低い」といった意見が見受けられました。一方で、ラグジュアリーブランドがライブコマースに挑戦したこと自体には好意的な声も。とはいえ、ラグジュアリーがラグジュアリーたり得るのは、希少性やブランドの世界観があってこそ…。

成功事例:「ディオール」はストーリーテリングが成功

出典:<a href="https://mp.weixin.qq.com/s/ORFlWt4dIKYIFlOoDwcfNQ">LADYMAX</a>

出典:LADYMAX

「ディオール」は2020年秋冬オートクチュールコレクションの発表に合わせてWeiboでライブ配信を行い、中国のアンバサダーAngelababyや雑誌「GRAGIA」の編集者、「Style」の編集長らを招待したライブ配信を行いました。配信ではコレクションに関連したショートムービーを流し、その内容やミニスカートの歴史について詳しく語り合い、コレクションテーマを理解してもらうような内容になりました。

高級感を醸し出す一方で、若者が好むライブならではの機能、つまりコメントが横に流れていくニコニコ生放送のような機能を解放しました(写真ではAngelababyへのラブコールばかり)。ライブ中の試聴は700万回に達し、アーカイブも合わせると1000万回もの再生数に!オートクチュールなので購入者は限られますが、ストーリーテリングというラグジュアリーブランドに欠かせないコミュニケーションをデジタルで成功させた例です。

成功事例:新型コロナで倒産ピンチ…社長自ら配信し大成功!

これも有名な事例ですが、この新型コロナ期間に多くのブランドが危機を迎えました。100都市で337店ぽを展開するスキンケア店「林清軒」もその一つ。創業者の孫来春は1月末に「このままだと2か月持たずに破綻する」と発表しちゃったほど。

そこで2月1日から淘宝ライブを開始。初日の視聴者はたった2人でしたが、めげずに配信を続け4日目に500人、バレンタインには社長自ら出演し、なんと6万人も視聴者を集めてしまいました。さらに主力の椿おいるはなんと40万個売れ!

実はこのブランドだけでなく、社長が出演するライブ配信はブームになりました。しかも評判も上々。研究開発担当者やブランドマネージャーが出てくるパターンもあり、一部の配信は発表会みたいになっています。

失敗事例:やっちゃった。トップライバーもたまにはミスる

“口紅王子”としてライブコマース界および化粧品業界で有名なKOL、李佳琦(Austin)。連日のように、淀みなく5時間もライブ配信を行い、化粧品から食品まで紹介しちゃう器用さ、そしてチャーミングな人がらと正直さが売りなのですが、昨年大失敗をしました。

やらかしたのはフライパンを使って目玉焼きを作る実演販売をしていた時のこと。焦げ付かないのがウリなのに、見事に卵が張り付いてしまい、大きな話題に。使用上の注意を理解せずに使っていたことが原因で、後日実演をやり直す羽目に…。彼クラスにもなれば、1放送で10製品以上を紹介します。プロなら全ての商品を細部まで把握すべきですが(アシスタントもいますし)、提供側も最大限商品について伝える必要はありそう…。

成功事例:百貨店とスポークスパーソンがタッグ

出典:銀泰百貨のWeibo

出典:銀泰百貨のWeibo

アリババ傘下の銀泰デパートと「クリニーク」が「スーパーファンデー」を実施し、ブランド1店舗の1営業日分の売り上げを超えたといいます。特に「イーブンベター ラディカル ブライトセラム」は単品販売で6000本が売れる大評判に。

この放送では銀泰ビジネスグループの陳暁東(チャン・シャオドン)CEOと、ブランドのアジアパシフィックスポークスパーソンで人気女優の高圆圆が出演。10万人以上が視聴しました。視聴者には多くの高圆圆ファンが集まり、彼女見たさ、また彼女を支援したい気持ちで購入をしたといいます。中国ではファンの購買力がすさまじく、業界からも注目を集めています。

関連記事:アイドルの人気が一目でわかる「商業価値ランキング」とは?歴史から紐解く中国アイドルの変遷(ChinaCosmeticLab

TOPIC|「指ハート」が鍵になる?WeChatの新広告機能に注目

先日のレターで各ブランドの新しいデジタルプロモーションの話をしましたが、実はもう一つあります。それがWeChatのスキャン機能を使った新しい体験です。

WeChatにはモーメントというタイムラインがあり、そこに流す広告とスキャンを組み合わせた機能が七夕の広告からローンチ。化粧品ブランドでは「トム フォード ビューティ」が取り入れました。

TOM FORD BEAUTYの七夕広告 出典:WeChat広告チーム

TOM FORD BEAUTYの七夕広告 出典:WeChat広告チーム

広告をタップして進むとスキャン画面が現れ、カメラに向かって「指ハート」をすると新作香水のサンプルがもらえます。この広告は通常に比べてコメント投稿率が約4倍に増えたといいます。また炭酸飲料の「7up」やヨーグルト飲料「蒙牛纯甄」も同様のプロモーションを行いました。

WeChat広告チームのデータによると、このスキャン体験を行ったのは若年層で、主に1〜2線都市のユーザーだったといいます。高級化粧品のユーザーにハマりそうな施策です。

■もっと読みたい

・「贈り物」で経済を回す!化粧品が売れまくる中国の恋人イベントとは?(ChinaCosmeticLab)→先日紹介した七夕のような贈り物をするイベントと、そこでのブランド施策のまとめ記事です

・進化するWeChatの動画機能   モーメンツから60秒の投稿が可能に(36Kr Japan)→テスト中の新機能。モーメントがよりWeiboっぽい仕様になる?Weiboも1〜3分程度の動画投稿が増えています。

・「下沉市場」で美容消費が急増!なぜ今3・4線都市なのか(ChinaCosmeticLab)→宣伝ばかりで恐縮ですが、中国市場についてマストで知っておくべき下沉市場について、その注目の理由などをまとめています

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来週はアンケート結果で人気が高かった中国で成功した海外ブランド事例を配信します(もしかしたら連載にするかもしれません)。

その他にもこんな内容が欲しい、質問があるなどのご意見ご感想・リクエストはこちらまでお願いいたします。

本文中の円換算レート:1人民元=15円

Writing : Anna Usui - supported by ‘the Letter’

経済紙などで執筆している美容業界ライターが中国の化粧品の最新ニュースから、世界の美容情報を独自の解説や考察をつけて、あなたのメールに無料でお届けします。

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